映画・芸術
松本俊夫著作集成T   一九五三 ─ 一九六五
松本俊夫著作集成T

松本俊夫[著]
阪本裕文[編]
A5判/616頁
本体6000円(+税)
ISBN978-4-86405-096-8
C1374
2016-5

映画・芸術論


日本実験映画界の重鎮であり、理論面においても前衛芸術運動を牽引した映像作家・松本俊夫の著作を網羅した集成(全四巻)。芸術的闘争の歴史的記録であるとともに新たな発見の書。

「私の過去六冊の評論集と、単行本には掲載されていない多量の発掘文を混ぜ合わせて、それらを編年史的に目次化したのがこの著作集成(全四巻)である。著者としてはここから視座の広域化や多層化が浮上し、各種の関係レベルでの新発見が、多角的かつ活発に生まれてくることを期待してやまない。」────松本俊夫

T巻では『記録映画』や『映画批評』等の雑誌に掲載された、1953年から1965年までの松本の著作を収録し、『映像の発見』(1963)と『表現の世界』(1967)に再録された論文の初出に加え、「作家の主体ということ」「疑似前衛批判序説」をはじめとした、単行本未収録の論文・記事を含めた全124本を収録。本巻によって芸術と政治の狭間にあった松本俊夫が、アヴァンギャルドとドキュメンタリーの統一をいかに模索していったのか、その過程が明らかになるだろう。

【目次】

[T 一九五三─一九六〇]
現実に密着した美術を──ニッポン展評 作者内部の概念規定が曖昧──武井・針生論争 『銀輪』 「作家の自主性のために」に対して 『マンモス潜函』を完成して 作家の主体ということ──総会によせて、作家の魂によびかける 前衛記録映画の方法について 私達の苦しみとその解決の道(一) 私達の苦しみとその解決の道(二) 書評──花田清輝著『映画的思考』 作品研究──『忘れられた土地』 映画のイマージュと記録──シンポジュームのための報告 迫りくる危機と作家の主体──警職法改悪に私たちはいかに対決するか 複眼のドラマ意識──ポーランド映画『影』 日本の現代美術とレアリテの条件 倒錯者の論理──主体論の再検討のために(1) 「敗戦」と「戦後」の不在──主体論の再検討のために(2) 新しいプロパガンダ映画──映画『安保条約』をめぐって 記録映画の壁──内部につき刺す表現とそれを拒む根強い保守主義 カナリヤに歌を 芸術的サド・マゾヒストの意識──もしくは創作の内的過程と芸術的効用性について 隠された世界の記録──ドキュメンタリーにおける想像力の問題について 超記録主義の眼──中国の現実と芸術・T 美術映画の驚異──中国の現実と芸術・U 政治的前衛にドキュメンタリストの眼を──1960年6月の指導部の思想をめぐって 残酷と現実否定のイメージ 残酷をみつめる眼──芸術的否定行為における主体の位置について 映画技術を最高に駆使した──『白い長い線の記録』

[U 一九六一─一九六三]
疑似前衛批判序説 モダニズムとクリティック 「バラの蕾」とはなにか──『市民ケーン』とオーソン・ウェルズ 琉球の祭りについて 荊の道に抗して──自作を語る 現代時評 三人のアニメーション 個々のぶつかり合いによる運動の最小単位を 変身の論理 大衆という名の物神について 意外性のドラマトルギー──勅使河原プロ『おとし穴』 巨視的な未来の透視──花田清輝著『新編映画的思考』 書評──小川徹著『大きな肉体と小さな精神──映画による文明論』 『太陽はひとりぼっち』──ミケランジェロ・アントニオーニ監督 肉を切らせて骨を切れ──あなたの中のA君に宛てて 映画運動の思想と責任──記録映画への批判にこたえて 反教育的教育論 安部公房氏のアイ・ポジション アンチ・テアトル上演の意義──イオネスコ作・表現座公演『アメデーまたは死体処理法』 映画創作のための連続講座──第二講・テーマとモチーフ 技術は向上、内容は低下──三人のアニメーション・3 形にならない形への模索──滝口修造著『点』 書評──滝口修造著『近代芸術』 映像・二つの能力──「見つける」ことと「作る」こと 「記録の目」の問題──対象のドラマを“模索”する もう一つの現実──「心のうごめき」を映像化する 「もの」との対決とは──外界、内界を結ぶヘソの緒 説明性を排除して──映像による直接的な表現 イメージの深さ──生理的刺激と精神的刺激 「音」と映像の対話──補助手段としての音の否定 表現をささえるもの──主体の燃焼と主題の深さ 日常の中の異常──内面化した人間解体のドラマ 意識と無意識の間──目に見えない世界を見ること あるがままの存在──事実のドラマから存在のドラマへ 思索する映像──「見る」ということの意味 可能性と障害と──名馬はいるがばくろうがいない 作品構造論に特色──浅沼圭司著『映画美学入門』 「動き」と「音」 追体験の主体的意味──『二十四時間の情事』について 自作を語る『石の詩』 欲求不満 偽造された歴史──日本共産党四十周年記念映画『日本の夜明け』批判 根深い歪みの変革を──大島?著『戦後映画──破壊と創造』 凝視と日常性──大衆社会状況下のリアリズム・その一 ドラマの無いドラマ──大衆社会状況下のリアリズム・その二 存在の形而上学──大衆社会状況下のリアリズム・その三 下半身と上半身──映画『女と男のいる舗道』『審判』 運動の変革 青芸ヘ──その先の課題 ルイ・マルの『鬼火』と消えることのない疵 映画批評の貧困──俗流政治主義、エセ戦闘性 イオネスコとメタフィジカル・ドラマ ネオ・ドキュメンタリズムとは何か

[V 一九六四─一九六五]
本能と外界の接点を抉る──『にっぽん昆虫記』(日活) 書評──武井昭夫著『創造運動の論理』 文学における「戦後」の超克 映像作家のみた西陣 隠れた部分へのアプローチ──ピランデルロへの手紙 人間性の回復──『去年マリエンバートで』を見て 基本方針案提起 劇団の堕落について 端正な冒険──『六人を乗せた馬車』について ベケットの世界──もしくは猶予の悲惨さについて 舞台のための覚え書 絶望のドラマ 対話を回復するために──ある劇作家集団を結成するにあたって 示唆的な空間論と時間論──中井映画理論に内蔵されているもの 事件の本質は何か──日共の裏面の動きに眼をむけよ 書評──針生一郎著『われらのなかのコンミューン』 破壊の美学──白南準作品発表会について アンデパンダン64──カオスの中のイメージ 事実はこうだった──石堂論文「岩崎昶氏と紅閨夢」への補足 未知の空間への挑戦 現実と人間の条件 可能性の世界──アニメーション・フェスティバルの試み 忘却と責任と──映画『パサジェルカ』をみて 血の形而上学 ドラマトゥルギー以前 偶然と選択の詩 疼く痛み鋭い思想性──変革を死にものぐるいで求めているドラマの世界 芸術運動とはなにか──「現代詩の会」解散をめぐって 差別からの自由とは何か──黒人解放を自己の自由と結びつける作家の意識を 映像の記録性について──ドキュメンタリーにおける事実主義の克服のために 精神的飢餓感の表現──アルビーの『バージニア・ウルフなんかこわくない』の評 意味と表現の分裂──安部公房『おまえにも罪がある』評 小川徹論──「裏目読み」の功罪 大型変圧器を運ぶ 総括(及び今後の方針)のために 真の戦争ドラマとは何か 迷路の中の他者 シジフォスの祭典──アンデパンダン・アート・フェスティバル 一条の綱を手ばなさず対立物をとことんかみあわせる──花田清輝著『恥部の思想』 愛と自由は可能か──『81/2』と『赤い砂漠』をみて 『瀕死の太陽』製作意図 日本的エロスの原像──『水で書かれた物語』 現代の映像──イタリアンリアリズム以後のドラマの状況

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【著者紹介】
松本俊夫(まつもと・としお)
1932年生まれ。映画監督・映像作家。
東京大学文学部美学美術史科を卒業後、新理研映画に入社し、実験工房のメンバーを起用してPR映画『銀輪』(1956)を演出。その後、教育映画作家協会(記録映画作家協会)に入会し、機関誌『記録映画』において前衛記録映画の理論を展開させ、その実践として『西陣』(1961)、『石の詩』(1963)などの記録映画を演出する。やがて作家協会内部の対立を経て、1964年には映像芸術の会を発足させ、同時代の作家らとともに映画運動を組織してゆく。1968年には同人としてフィルムアート社の設立に参加し、雑誌『季刊フィルム』を刊行するなど、越境的な芸術の動向に影響を与える。その後の作家活動では『つぶれかかった右眼のために』(1968)、『メタスタシス=新陳代謝』(1971)、『アートマン』(1975)をはじめとする数々の作品によって、国内における実験映画やビデオアートの動向を牽引してゆく。また、日本万国博覧会ではせんい館のディレクターを務め『スペース・プロジェクション・アコ』(1970)を発表したほか、ATG提携の『薔薇の葬列』(1969)をはじめとし、『修羅』(1971)、『十六歳の戦争』(1973-1976)、『ドグラ・マグラ』(1988)という四本の劇映画を監督した。1980年以降は、九州芸術工科大学、京都造形芸術大学、日本大学などで教鞭を執り、後進の指導にも努めた。最新作はオムニバス映画『蟷螂の斧』(2009-2012)。著書に『映像の発見──アヴァンギャルドとドキュメンタリー』(三一書房、1963)、『表現の世界──芸術前衛たちとその思想』(1967)、『映画の変革──芸術的ラジカリズムとは何か』(三一書房、1972)、『幻視の美学』(フィルムアート社、1976)、『映像の探求──制度・越境・記号生成』(三一書房、1991)、『逸脱の映像──拡張・変容・実験精神』(月曜社、2013)などがある。

【編者紹介】
阪本裕文(さかもと・ひろふみ)
1974年生まれ。映像研究。
京都精華大学大学院博士前期課程修了。稚内北星学園大学准教授。NPO法人戦後映像芸術アーカイブ代表理事。
共著書に『メディアアートの世界──実験映像1960-2007』(国書刊行会、2008)、『白昼夢──松本俊夫の世界』(久万美術館、2012)。編著に『記録映画(復刻版)』(不二出版、2015-2016)。