芸術
墨痕   書芸術におけるモダニズムの胎動
墨痕

栗本高行[著]
A5判/376頁
本体4500円(+税)
ISBN978-4-86405-088-3
C1071
2016-1

美術史・書史


比田井南谷を嚆矢とする前衛書の探究。伝統を背負いながらモダニズムの波と対峙し、言語とイメージ、モノクロームと色彩の間で苦闘した書家たちの戦後があった。
上田桑鳩、宇野雪村、大澤雅休・竹胎、千代倉桜舟、青木香流、森田子龍、井上有一。
抽象表現主義、アンフォルメル、「具体」といった同時代の前衛美術との連絡や、かな交じり書への挑戦を通して「現代書」の理念を希求した表現の系譜を辿る。

【目次】



【T「書」における近代化の問題と戦後の大規模展時代の到来】
 1 日本の書にとっての近代
 2 「現代書」前史[1]───「古典」との遭遇による東洋的近代の消化
 3 「現代書」前史[2]───「古典」に対する姿勢の柔軟化と西洋近代美術の影
 4 西洋文化との対峙と戦後書壇の形成
 5 「現代書」の概観

【U「書」の現代的展開と新たな伝統の形成】
 1 「大衆」の視線の意識化───金子?亭と近代詩文書
 2 海外からの視線の意識化───手島右卿と少字数書

【V 前衛書、その発生と展開】
 1 書と前衛
 2 比田井南谷と「心線」の発見
 3 南谷書の躍進
 4 未知なる記号における造形精神の交叉
 5 大衆性との乖離
 6 臨書研究からの出発
 7 書の構造の根底にあるもの
 8 構図へのまなざし
 9 空間の増殖とその反作用
 10 最後の実験
 11 前衛書を受け継ぐ
 12 臨書への懐疑から真の創作へ
 13 呼応する「線の思想」
 14 時代の尖端に躍り出た美意識

【W 書壇からの脱出とその帰結───「墨人会」と森田子龍・井上有一】
 1 「墨人会」結成まで
 2 『墨美』の編集と美術との摩擦
 3 いのちの動き
 4 東洋の磁力圏での創作
 5 文字の破壊から創造へ
 6 宇宙的空間の体現としての書
 7 「言語」への挑戦───ソシュール言語学の見地から@
 8 意図への問いかけ───井上有一と美術

【補説 書と美術の接点とは】
 1 第二のジャポニスム?
 2 美術批評家の冷遇
 3 アメリカ絵画に差す「書」の影
 4 ヨーロッパ大陸との具体的接触
 5 日本美術の住人たちの視点
 6 トランスメディアの視線───前衛主義の再考察

【X 漢字かな交じり書の可能性】
 1 現代書の動向とかな
 2 壮大なる書作の背景
 3 前衛表現への踏み出し
 4 「超大字かな」への飽くなき挑戦
 5 一心同体の書業
 6 大地への憧れ
 7 古典消化のための紆余曲折
 8 美術への「開かれ」
 9 戦争と書
 10 「光線」と研ぎ澄まされた白
 11 第二の「師」
 12 読めない書という到達点
 13 大空襲を書にする
 14 書における推敲の本質───ソシュール言語学の見地からA
 15 儀式としての臨書
 16 コンテ書をめぐるさまざまな見解
 17 現代書へ向かう先兵として



参考文献一覧
図版出典一覧
あとがき
事項索引
人名索引

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【著者紹介】

栗本高行(くりもと・たかゆき)
1984年、岐阜県生まれ。
2009年、慶應義塾大学文学部独文学専攻卒業。2014年、多摩美術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。博士(芸術)。
専門は近現代を中心とする書の歴史および美術史。
2010年に第2回「墨」評論賞準大賞、2011年に第1回東野芳明記念優秀修了論文賞、2014年に第10回「涙骨賞」奨励賞を受賞。雑誌・展覧会カタログへの美術評論の寄稿も多い。
2014年より多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。